2018.05.23 公開

WhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors Interviews 輝き続ける専門医 Dr. 鋪野 紀好

WhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors Interviews 輝き続ける専門医

Dr. 鋪野 紀好

Dr. Kiyoshi Shikino

千葉大学大学院医学研究院診断推論学
千葉大学医学部附属病院
総合診療科 兼 総合医療教育研修センター 特任助教

専門:総合診療科

   

大学病院と地域医療の二面性型にはまらない探求心でジェネラルマインドを磨き続ける Dr. 鋪野 紀好

大学病院と地域医療の二面性型にはまらない探求心でジェネラルマインドを磨き続ける Dr. 鋪野 紀好

問診のみで症状を見極める
衝撃的な総合診療との出会い

はじめて総合診療に出会ったのは、千葉大学総合診療科の生坂政臣教授が行っていた臨床実習。生坂教授は患者さんの診断に対して一切の妥協を許さない真のプロフェッショナル。

原因不明の痛みに長年苦しんでいる患者さんに対し、問診で診断に迫っていきます。患者さんの言葉をただ聴くのではなく、症状の細部まで聴取し、あたかも患者さんの日常生活を映像化するかのような問診でした。

結果として診断したのは、当時さほど認知されていなかった「リウマチ性多発筋痛症病」でした。数年間患っていた症状を、治療介入からわずか3日間で治してしまいました。

私自身、問診スキルは、現在でも日々トレーニングして向上に努めています。患者さん自身に状況をイメージしてもらえるよう問診するため、より正確な病歴を取得できます。患者さんの言語表現による認識の差異を最小限に抑える手法の一つです。

当時、私は内科医志望で「地域医療に貢献したい」という思いを持っていました。限られた資源で診療する地域医療で、患者さんを目の前に「専門外で治療できない」とは言いたくありませんでした。衝撃的な診療を目の当たりしたことに加え、分野に関係なく、非選択性を発揮できる総合診療科へ舵をきることに決めました。

難解な症例を思考法一つで
瞬時に診断へと導く

シニアレジデント時代に出会った患者さんは、夜間に手足をばたつかせ、うなり声をあげているのをご家族が発見して受診された方でした。せん妄や癲癇を疑われてから、大学病院を受診されました。

夜間の異常行動として解釈して、診察を進めましたが一向に診断には至りません。そこで、臨床推論の考え方、「Semantic Qualifier」を取り入れました。これはキーワードを絞り込み過ぎず、逆に引いて広い視野で見直す考え方です。

この症例では、生坂教授から「Semantic Qualifierを発作性まで引いて考えるべき」とアドバイスいただき、インスリンノーマによる低血糖発作が原因と診断できました。Semantic Qualifierは、「ヒューリスティックバイアスから脱却する能力」のひとつです。ヒューリスティックバイアスに一度陥ると診断エラーにつながります。その回避方法を、症例を通じて教えてもらいました。

難解な症例で印象的だったのは、若年者の原因不明の意識消失。その患者さんは、精神科で複数の異常、内科で腎臓や低血糖を診断され、家庭環境も悪く、紹介状が約100ページありました。

最初に診た医師は精神的な原因と推測していましたが、実際に診察すると睡眠障害でした。突発的に眠気が来て、そのまま寝入ってしまいます。意識はあるものの「脱力発作」で全身に力の入らない状態に陥ります。患者さんの日常生活に最も影響を与えているのは睡眠障害と気づき、専門医を紹介して様々な検査を踏まえて診断しました。治療介入してからは、発作の頻度が減少していきました。家族関係など精神的背景もあったため、診断がアンカリングされていたケースでした。

Thomas Jefferson Universityでのリサーチミーティングに参加

立ち位置により異なる役割を
求められるやりがい

総合診療医師で働く場として、2ヵ所を選択しています。地域医療と大学病院です。この2つは、同じ総合診療医という立ち位置でありながら、異なるやりがいを感じています。

2018年現在、週に1度いすみ医療センターで診療しています。いすみ市は人口約4万人で、医療過疎地域と呼ばれる地域です。

地域医療では、「ゲートキーパー」としての役割が大きいです。つまり、すべての症状の入り口として、症状に悩む方の診断、治療を行います。現場では、短時間で一人でも多く患者さんを診察する能力を求められます。専門的な治療が必要であれば、専門医との橋渡しの役割を果たします。

一方で、大学病院では、「最後の砦」としての役割を持っています。どんな医療機関にかかっても、診断がつかず、疾患も分からない、そんな患者さんが最後に藁にも縋る思いで訪れるのが大学病院です。「もし我々が匙を投げれば、患者さんには後がない」そんな思いで、患者さんと日々向き合っています。

入り口と出口、双方で患者さんを診療できるのがやりがいにつながっています。立ち位置によって求められる役割は異なります。

仕事でベストパフォーマンスを発揮するために、ワークライフバランスを重視しています。つい仕事に没頭してしまうこともありますが、バランスを保てなければ、良いパフォーマンスを発揮できません。休日には、3歳になる娘と買い物や公園でピクニックに行きますが、そういった家族との時間があってこそ仕事に活きてきます。

自身のキャリアでは、40歳を一区切りと捉えています。それまでに総合診療医としてのロールモデルとなれることを目指しています。学生や研修医にとって、総合診療医のロールモデルとして憧れられる存在になれればと思います。

SGIM 2017(米国総合内科学会)に参加。症例プレゼンテーションやワークショップで米国総合内科のトピックを学ぶ。

すべての医師が持つべき
ジェネラルマインドを広める

これまでを振り返って思うのは、医師として初期段階で総合診療の考え方を学ぶことの重要性です。どの専門分野でも共通していますが、一度専門分野で経験を積めば、自分の拠り所となってくれますが、逆に苦手分野を作ってしまう可能性もあります。

総合診療では、器質疾患だけでなく、精神疾患にも苦手な分野をつくってはなりません。すべての領域を包括的に診られるよう、専門性ができる前に総合的な考える力を養う必要があると思います。

また、疾患を総合的に診る力が必要です。たとえば、疾患の確率が90%のものであれば、誰が診てもその疾患だと断定できるはずです。ただ、疾患Aの可能性が10%とすると、「Aではない」と考えるのが一般的でしょう。総合診療で求められるのは、「Aの可能性50%、Bが1%、Cの確立が0.5%、Dが0.1%。それらを相対的に見ると診断はA」という考え方です。各領域の疾患を比較して診断をつける。これは総合診療医の武器だと思います。ジェネラルに研修すると考え方を学べて良いはずです。

限定的な単一分野ではなく多様な専門性を、探求心を持って、常に自己研鑽できる人が総合診療医として活躍するかもしれません。キャリアアップするために、2018年4月から始まった「総合診療専門医」を取得しても良いでしょう。働き方は多岐に渡ります。地域に根差した診療所の医師として、病院で入院患者を診るホスピタリストとして、総合診療をベースに持つ専門医として、自由にキャリア選択できます。

私が特に注力したいのは、大学病院で総合医療もしくはジェネラルな考え方を持てる医師を増やすことへの貢献です。学生や初期研修医を中心にジェネラルマインドを伝え、一人でも多く増やしていきたいです。その点で大学病院は恵まれた環境で、120名の学生に加え、総合診療科の初期研修医が30~40名ほど年間を通じてきます。彼らにはジェネラルに診られる喜びや楽しさを伝えていきたいです。

ある1日のスケジュール

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Dr. 鋪野 紀好

Dr. Kiyoshi Shikino

2008年 千葉大学医学部医学科卒業、千葉大学大学院医学薬学府博士過程修了(先端医療科学)、2008年 千葉市立青葉病院 臨床初期研修、2010年 千葉大学医学部附属病院 総合診療部、2013年 千葉大学医学部附属病院 総合医療教育研修センター、2017年 千葉大学医学部附属病院 総合診療科後期研修プログラム(家庭医療コース)プログラム責任者

Dr. 鋪野 紀好のWhytlinkプロフィール