2016.04.07 公開

WhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors Interviews 輝き続ける専門医 Dr. 富田 英

WhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors Interviews 輝き続ける専門医

Dr. 富田 英

Dr. Hideshi Tomita

昭和大学横浜市北部病院
循環器センター長
(現:昭和大学病院小児循環器・成人先天性疾患センター長)

専門:小児循環器病・先天性心疾患のカテーテル治療

   

広く世界に目を向けてほしい そこには活躍の場がまだまだたくさんある Dr. 富田 英

広く世界に目を向けてほしい そこには活躍の場がまだまだたくさんある Dr. 富田 英

学問には旬がある
その旬をいかに捕まえ、楽しめるか?

学問というものには旬があると思うんですね。その時その時に輝いて見える領域がある。今だと遺伝子などジェネティックな領域や再生医療などが旬といえるでしょうし、がんや循環器疾患など、ずっと注目を集めてきたメジャーな領域もあります。私の専門は先天性心疾患領域になりますが、小児内科の基礎研修を終え専門を選択するちょうどその時期、診断技術や管理技術の進歩で、ぐっと小児科医の役割が大きくなっていった時期にあたります。

それまで、循環器領域は極端に言えば身体を開けてみないと何が起きているか解らない…という世界で、外科の先生の役割が大きく、内科医にできることが非常に限られていたんです。ところが、超音波で診断できるようになったことで、内科側からどういう治療をしたらいいかを外科の先生にコメントできるようになり、そこから10~20年の間で小児循環器は急速に治療成績が向上していきました。

そういう時期だけに、当時の私にとってはひときわ目を引く、旬の領域だったわけです。専門として選ぶ人、専門とし続ける人が少ないマニアックな領域ですが、私のなかでは常にずっと、「面白い領域と出会った」というのが実感です。30年以上やってきた「今」がいちばん面白いですね。

世界の標準的な治療を
日本の患者さんへ... そのために

日本には「デバイスラグ」という問題があります。本来ならもっといろんなアプローチができるにも関わらず、デバイスが手に入らないために治療できない患者さんが多く存在しています。この課題の解消に向けて、日本の患者さんが世界の標準的な治療を受けられる環境づくりを進めていくことが、私のテーマのひとつなんです。

特に子どもの心臓病の場合、大人に比べて疾患の種類が多い上、乳児から少年期まで年齢によって身体のサイズにも差があるため、治療機器も患者さんごとにテーラーメイドで合わせていかなければなりません。その分、コストパフォーマンスが悪く、医療機器メーカーとしてもなかなか踏み込みにくいのが現実でしょう。

そんな中、できるだけ企業に負担をかけずに最適なデバイスを世に届けていくためには、医師が中心となって機器開発を行う、医師主導治験が重要になってくるでしょう。先般、私も東海メディカルプロダクツというメーカーと連携し、日本初となる小児用バルーンを開発しました。

医師とメーカーが手を取り合うことで、少しずつでもより良い医療を届けられるはずです。まだ、課題の解消にまでは至っていませんが、今後も、こうした活動を通してより良い医療環境づくりを進めていきたいですね。

日本の医療を、新興国へ
ハートセービングプロジェクト

モンゴルの先天性心臓病患者に医療を届ける「ハートセービングプロジェクト」も、私のテーマのひとつです。モンゴルには大変な数の患者さんがいて、そのほとんどが何も治療できず亡くなっている… 何かできることはないかと。

私の友人である島根大学の准教授が、2001年に始めた活動なのですが、スタート当初はまるっきり手作りのプロジェクトで、4〜5人でお金を出し合って治療機器を購入し現地に持ち込み、宿泊も知人の家にホームステイして…といった状況で、年に1度行くのが精一杯でしたね。

当時はモンゴルの医療インフラも未整備だったため、1日4〜5人、5日間の滞在で20〜30人治療するのが限界でした。その後徐々に参加者も増え、麻酔科医が育つなど、現地の医療インフラも整備されてきたこともあり、年に3〜4回、1日8人程度と処理能力も倍近くに。治療だけでなく、ウランバートル以外の地方の子どもも診てほしいというリクエストに応えるため、検診チームも動いています。

最近では、我々が治療するのではなく、現地の先生に治療してもらうスタイルにシフトしてきており、レクチャーや教育に時間を使うなど、次のフェイズに移ろうとしています。こうした私たちの活動が、日本国内の小児循環器の先生の間でも知られるようになり、若い先生から「一緒に連れて行ってほしい」というようなケースも増えてきているのは、本当にうれしいことです。

なお、モンゴルとは別にミャンマーでは、「明美ちゃん基金」という産経新聞が運営する基金が始めた事業にも参加し、個人的に支援しています。

世界に視野を広げ、
活躍の場を見出してほしい

モンゴルやミャンマーでの活動を通して感じるのは、医療自体のやりがい、医者としてのモチベーションを実直に感じるということです。私たちの医療を待ち望む患者さんがたくさんいるのもそうですが、ストレートに命のやり取りをして、こう治療すれば救える…ということに専念できる。他のことはあまり考えず、治療に全力を尽くすだけという環境がそうさせるのでしょうね。

これから成長していく若い先生方には、アメリカやヨーロッパだけを見るのではなく、もっと世界に目を向けてもらいたい。実のところ、日本の医師免許証というのは結構パワフルで、日本の医師免許証を持っていればできること、活躍の場が世界にはもっとたくさんあるということを知ってほしいんですよね。

私の下に入った若い人にも、どんどんチャンスを見つけて海外に行かせています。私自身、世界に目を向けるのがもう少し早かったら、医者としてもっと違う人生があったかな…と思うくらいですから。世界の医療情勢に目を向け、そこからのフィードバックが日本の医療レベルを引き上げるということも多々ありますので、そういう目で医者の仕事というものを見てほしいと思います。

Dr. 富田 英

Dr. Hideshi Tomita

1979年 札幌医科大学医学部卒業。小児循環器病学、先天性心疾患のカテーテル治療を専門とし、NPO法人 Heart Saving Project 副理事長として、モンゴル国での先天性心臓病治療に貢献。2009年12月 モンゴル国より北極星勲章を受勲。昭和大学横浜市北部病院循環器センター長を経て、2018年1月 昭和大学病院小児循環器・成人先天性心疾患センター長就任。小児および先天性心臓病に対するカテーテル治療を研究するための学会である日本Pediatric Interventional Cardiology学会理事長

Dr. 富田 英のWhytlinkプロフィール