2016.07.20 公開

WhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors Interviews 輝き続ける専門医 Dr. 水野 篤

WhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors Interviews 輝き続ける専門医

Dr. 水野 篤

Dr. Atsushi Mizuno

聖路加国際病院 心血管センター・循環器内科・QIセンター
急性期看護学・臨床准教授

専門分野 : 循環器内科

   

データを活用し、勇気と敬意で人を診る。Dr. 水野 篤

データを活用し、勇気と敬意で人を診る。Dr. 水野 篤

こんなにいい職業はない!
そう気づいた理由とは?

ひとつのことに絞り込むのが苦手なんです。診療科を選ぶときにも、関わることができるフィールドをできるだけ広くしておきたいと考えて、循環器内科を選びました。患者さんの急変に対応するだけでなく、高血圧の患者さんはもちろん、糖尿病の患者さんも診られないことはありませんから。
神戸市立中央市民病院(現:神戸市立医療センター中央市民病院)で初期研修医になって、すぐに、こんなにいい職業はないと気づきました。勉強を続けていくことで成長を実感できるし、学問をする面白さも追究できる。また、病気や死という人生の重要なイベントに直面した患者さんの生き様にもふれることができます。こんな職業は、ほかにはないと思います。そういう意味でも、できるだけ広いフィールドで患者さんに関わりたいと考えたんです。
私が初期研修医になったのは2005年で、新しい臨床研修制度がスタートして2年目でした。当時は、初期研修も後期研修も手探りの状態でしたが、現在では、後期研修までのキャリアプランはかなり整備されたと感じます。一方、後期研修以降のキャリアプランは今でもはっきりしていません。でも、それはある意味、仕方がないことだと思うんです。自分の場合、患者さんに育ててもらう部分が大きかったと思います。私たちドクターは、出会った患者さんに育ててもらいながら、それぞれのキャリアが形成されていくのかもしれませんね。

集団から得られたデータをどう活用するか?
それが今後の課題。

一方、患者さんに水準以上の医療を提供するためには、やはり標準化が必要だと思います。聖路加国際病院では2007年から、QI(Quality Indicator)を一部公表してきました。QIは、医療の質を評価するための指標です。たとえば、高血圧の患者さんのうち血圧のコントロールができている割合は、医師毎に集計されているんですね。恥ずかしい話ですが、2年目の頃「院内で一番成績がいいのは自分」と思い込んでいたんです。ところがQIをチェックすると70~80%で、院内でのランキングもよくありませんでした。コントロールができていない患者さんのカルテを見直すと、それぞれ事情はありましたが、自分の感覚だけに頼るのではなく、指標もチェックすることの重要性を痛感しました。
たとえば、聖路加国際病院で高血圧の処方をしている患者さんのうち、10年後には10人に1人が亡くなっています。こういう見方で目の前の患者さんの治療にあたることが重要だと思います。具体的には、集団から得られたデータをクリニカルパスに反映したり、患者さんが意思決定する際の材料に使ったりする。一例をあげると、どんなに技術が高い外科医が執刀しても、合併症が発生するリスクはあります。さらにその割合は、全ドクターの標準値から大きくずれることはないのです。この標準値を患者さんに伝えると同時に、数値をどう解釈すればよいのかを説明することで、医師は患者さんの意思決定をサポートできます。こうした役割を果たすことが、今後、医師に求められるようになるはずです。

日野原先生のおかげで
原点に帰ることができた!

1年ほど前、仕事の方向性のことで悩んでいたんです。チーム医療のレベル向上、患者さんへの対応、サイエンスの追究など、どれも目標を掲げて挑戦してきたつもりです。でもどれもが同時に表面上満足される答えがあるわけではないんです。患者さんは、医学的にみて必ず正しい答えを出すわけではありません。患者さんが、どう生きたいと考えているかで意思決定も違ってきます。本当にいろいろ悩みましたが、患者さんの人生における意思決定をサポートすることを重視しようと心から考えました。当たり前のことなんですが、難しいんですよ(笑)。
こう考えたのは、名誉院長の日野原重明先生の影響が大きいんです。昨年、先生のご自宅で話をさせていただく機会がありました。先生も循環器がご専門ですし、お話を聞いていると「医師という職業は本当に素晴らしいな」と思えてくるんですね。特に、先生のヒューマニズムというか、患者さんを人として尊重する姿勢に心を動かされました。その後、日野原先生が翻訳された『平静の心』を再び読み直し、著者のオスラー博士が推奨する本だけでなく、日野原先生が推薦する本も読むうち、自分の心が固まりました。
実は、初期研修医時代にNHKの取材を受けたことがあるんです。「どんな医師になりたいか?」という質問に、「人を診ることができる医師」と答えました。かなり恥ずかしい思い出ですが(笑)。日野原先生のおかげで自分の原点に戻ることができて、進むべき方向もハッキリしました。

初期研修医時代、毎朝通っていた勉強会の資料が入ったファイル初期研修医時代、毎朝通っていた勉強会の資料が入ったファイル

今の自分があるのは、
いろいろな人との出会いがあったから。

研修医の先生には、ぜひ、教科書に載っていないことを学んでほしいですね。特に、シビアな状況にある患者さんやそのご家族の対応には、人間力が要求されます。先輩の医師がどのように対応しているかを見て、学んでほしいと思います。
改めてふり返ってみると、今の自分があるのは、いろいろな人との出会いがあったからです。神戸市立中央市民病院で出会った先生方,また聖路加国際病院で出会った先生方、特に日野原先生や院長の福井次矢先生の影響を受けて、今の自分が形成されていると思います。では、人との出会いを大切にするにはどうすればいいかというと、印象に残る出会いがあったときに、自分がどう感じたかを記録するとよいと思います。後でふり返ると、さまざまな発見があるはずです。
自分の診療科を選択する際には、迷うこともあると思います。特に患者さんの命を左右するような現場では、ある種の覚悟も要求されます。最新の知識を学び、技術を磨く努力を続けることはもちろん、想定されるあらゆるリスクとその対処法を考え抜いた上で、最後は、勇気をもって治療を行う必要があります。同時に、患者さんに対して敬意を払うことも重要です。勇気と敬意。この2つは、私自身も大切にしていることです。

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Dr. 水野 篤

Dr. Atsushi Mizuno

2005年京大医学部卒。同年神戸市立中央市民病院(現・神戸市立医療センター中央市民病院)にて初期研修。07年聖路加国際病院内科専門研修内科チーフレジデント、09年同院循環器内科、15年より同院QIセンター・心血管センター・循環器内科/聖路加国際大学看護学部急性期看護学・臨床准教授。

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