2018.01.18 公開

WhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors Interviews 輝き続ける専門医 Dr. 坂本 壮

WhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors Interviews 輝き続ける専門医

Dr. 坂本 壮

Dr. So Sakamoto

順天堂大学医学部附属練馬病院
救急・集中治療科

専門:救急、集中治療、総合内科

   

「謙虚であれ」、そして「No Passion No Education」を胸に、学びの日々を Dr. 坂本 壮

「謙虚であれ」、そして「No Passion No Education」を胸に、学びの日々を Dr. 坂本 壮

もっとも言いたくないセリフは
「専門外だから診られない」

祖父の代から医師の家系。開業医として地域のために働く父の姿を見て育ったので、自分も将来は医師になり、地域のために働くのは当然だと思っていました。一種の使命感でしょうね。医師になることに迷いはまったくなかったし、診療科は父と同じ消化器内科など内科を選択するつもりでした。

それを変えたきっかけは、研修医の時、救急・集中治療科をローテートしたときでした。救急医というと救急外来のみを担当するイメージがあるかもしれませんが、当院は入院患者も担当する。症状が急変した入院患者、外科の術後の患者、救急外来でやってきた患者…など。脳神経外科や循環器といった専門性が高い診療科については、その科の先生にお任せしますが、それ以外は原則、救急集中治療科の担当。全身をしっかり診られるので、非常に勉強になります。

実家周辺は病院が少ないため、父の跡を継げば様々な主訴の患者さんが来院します。消化器専門だからと胃腸に症状がある患者さんだけを診るわけにはいかない。どんな患者さんが来ても、少なくとも何の病気か、どの専門病院にお願いすればいいのかといった初期段階の適切なマネジメント能力が必要。そう考えると救急・集中治療科なら「科」に縛られず横断的にいろいろ勉強できる。そう思って選択しました。

5年間で救急と集中治療の専門医の資格をとりましたが、手がけたことのない分野も残っていた。整形外科や小児科、泌尿器科などに加え、高血圧、糖尿病、認知症のような定期的に外来で経過を診ながらの治療経験も少なく…。でも大学病院の救急集中治療科で、それを体験するのは難しい。そこで、西伊豆健育会病院で修行させていただきました。ここであらゆる患者さんを診られた経験が、現在の救急の現場にも非常に役立っているのを日々、実感しています。

医師として言いたくない言葉が「専門外だから」。

「お医者様はいませんか?」のアナウンスには自信をもって手をあげたいし、道端で倒れている人がいたらすぐに助けたい。そんな医師をイメージしながら毎日、勉強しています。父からもよく言われるんですが「一生勉強」なんですよ。

研修医への勉強会が
著書出版のきっかけ

研修医向け書籍『救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)を出すきっかけになったのは、研修医と共に開催していた勉強会です。

そもそも勉強会を始めたのは、自分が研修医時代に感じた不安を少しでも取り除けたら、と思ったから。自分ひとりしか医師がいない時に重症な患者さんが来たらどうしようとか、みんな悩むと思うんですよ。

救急の現場は忙しい。だからといって研修医の教育を疎かにすれば右腕が育たない。医師は常に忙しく、研修医を教えられないという悪循環に陥る。医師になりたての僕自身が困って、悩んでいたんです。

右腕といっても高度なレベルを要求するわけではなく、基本的な事項があたりまえにできるようになるだけでだいぶ助かります。そういうことを伝えたくて、研修医を対象に勉強会を開くようになったんです。意識障害、失神、麻痺、胸痛など、現場でよく出会う症候はある程度決まっている。僕の主催する勉強会は、それらの話題を中心に、レクチャーするというよりは、彼らと一緒に僕自身も学んでいくようなスタイルですね。

当時は医師になって5年目、救急医になって3年目と私自身が勉強中の超若手。「to teach is to learn」の言葉通り、教えることで知識はより身に付くこともあり、日々の臨床だけでなく勉強会にも積極的に取り組んでいました。

そんなことをしていたら、なぜか上司を通じて出版の話が舞い込み…。でも、当時は元気なだけで、知識なんてまだまだ。本を出したらかっこいいなとは思いましたが、全然、筆が進まず(笑)。最終的に3年近くかかりましたが、出版社の方は辛抱強く待ってくださって… ありがたいことです。

初期研修医を対象に、当たり前のことばかり書きました。目新しいことはありません。そもそも研修医は、患者が来た時にまず何をしたらいいのかといったところで困っている。だから、そこにスポットを当てたんですが、案外好評なんですよ(笑)。

同じモチベーションをもつ仲間が
自分を成長させる

研修医時代に高い意識をもって勉強に取り組めたのは、救急集中治療科の同期ふたりの存在があったからだと思います。同じ現場で働きながらも、そのなかでそれぞれが興味ある分野で活躍しています。同じところからスタートした3人が、真剣に医療を考え、目指す目標が少しずつ違っていく過程は非常に勉強になり、また刺激にもなった。

彼らのような信頼できる親しい人が周辺にいれば仕事はどんどんやりやすくなりますが、反面、親しい人だけに囲まれていると、今度は、自分がやっていることが果たして正しいのかという不安が頭をもたげてくる。自分を客観視するために外の勉強会などにも、積極的に顔を出すようになっていきました。

大学時代はラグビー三昧でキャプテンを務めていました。同期の8人は誰ひとり欠けることもなく6年間がんばった。高校までやっていた個人スポーツのテニスとは違い、ラグビーでチームワークの大切さを学びました。やっぱり医療はチームなんですよ。

また、同意見ですっかり意気投合した同年代の医師ふたりと3人で学会等でセッションなどをしながら熱い思いを訴えていたら、感染症コンサルタントの青木眞先生が「三銃士」に例えてくれたので、そのまま「三銃士」と名乗って、いろいろ活動中です。

論文や参考書から学ぶのも大事ですが、自分と同じような立場のドクターと会うのはもっと大切かもしれませんね。

しっかり休める救急医療の体制づくりに欠かせないのが、救急医をアシストできる研修医の存在。忙しいからこそ研修医教育が大切になる

これからの救急医療
患者の背景にあるものを考える

最近は、救急や総合診療に興味がある人が増えています。いろんな医局に人的なネットワークができるし、全身管理もできるようになる。救急集中治療科を含んだ専門医になるためのプログラムも数多くあります。こうした機運が高まるとともに、「これは私の専門ではないので診られません」といったセリフを言う人はいなくなるかもしれません。というか、いなくなってほしいですね。

救急医療のこれからの課題は、救急外来を担当することの多い研修医を含む若手の医師の教育や、患者教育だと思っています。

たとえば、救急には、「酔っぱらって転んだ」、「血圧が高くて心配」、「発熱が…」といった同じような症例の患者さんがたくさん来るんです。

患者が来る都度、適切な対応をすることも重要ですが、対応できる数には限りがある。だから、どの病院でも対応できるように本に書いたり、勉強会を開いたりすれば、その何倍もの人を救える。また、ことによると、患者予備軍に対する予防教育につながるかもしれない。そんなことにチャレンジしたいと考えています。

患者の家族に対する接し方も課題でしょう。子どもの怪我で診療に来られたお母さんに対して「ちゃんとお子さんをみていてあげてくださいね」とつい言ってしまうこともありましたが、実際に子どもをもてば、怪我をしないように子どもを見張ることなど不可能に近いとわかる。それを知らないと、子どもが怪我をして焦燥しているお母さんを、さらに傷付けることになってしまう。そういうところにまで気を配ることができるようになりたいですね。

高齢者に対する医療にも様々な課題があります。

たとえば、元気な高齢者に抗血栓薬を使うかどうか。血が固まらない高齢者が救急に運ばれてくれば、「なんで転ぶリスクが高い高齢者に抗血栓薬を使うんだ」と思ってしまいがちですが、患者さんとの付き合いが長い主治医は、この先何年も元気そうだと思うから脳梗塞など重篤になり得る病気を予防するために薬を処方する。そこには理由があるはずなんです。

一方的に批判するのではなく、なぜ、こうした処方・処置になったのか。その背景を考える必要があるはずだし、わかる仕組みが必要かもしれません。

このように新しいことに積極的に取り組むようになったのは、西伊豆健育会病院長の仲田和正先生の影響が大きいですね。先生は60歳を過ぎてなお何があってもあきらめない。「この地域だから…」「この病院だから…」といった限界は一切設けない。好奇心を失わず、日々勉強されています。そして決めのセリフは「常に目の前のことに全力で!」。先生に出会って、「自分ももっとやらなければ」、「医療は場所ではなく人だ」と考えるようになりました。

発想が変われば視点が変わり、新しい課題を次々に発見できるようになる。今では、病院で待っているだけが医者ではないと考えるようになりました。外に出れば新しいアイデアが浮かぶし、新しい人脈も広がります。今後もどんどん外に出て、いろいろなことにチャレンジしていくつもりです。

WhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors InterviewsWhytRunner(ホワイトランナー) Specialist Doctors Interviews

Dr. 坂本 壮

Dr. So Sakamoto

2008年 順天堂大学医学部卒業、同年 順天堂大学医学部附属練馬病院初期臨床研修医、2010年 順天堂大学医学部附属練馬病院 救急・集中治療科入局、2015年 西伊豆健育会病院 内科常勤、2017年 順天堂医学部附属病院 救急・集中治療科(現職)、西伊豆健育会病院 内科 非常勤

Dr. 坂本 壮のWhytlinkプロフィール